The LASTTRAKをご存じない方へ
The LASTTRAK。通称ラストラ。岩手出身の兄、Takachenco(1981生)と弟、C.Sayid(1983生)による兄弟リミキサーユニットである。
先日お台場で行われたRe:animationに遊びに行かれた方はご存じかもしれない。
幽遊白書「微笑みの爆弾」、エウレカセブン「秘密基地」を始めとするアニソンのブートリミックスにより、
ネット上で一躍有名になったこのユニットは、その後も流行を掴んだリミックスで好評を得、「微笑みの爆弾」のオフィシャルリミックス化、
「初音ミク Dance Remix Vol.1」、「Battle SQ」、「VRUSH UP! #02 -DECO*27 Tribute-」などの公式Remix企画にも参加し活躍中である。
アニメ「ウィッチクラフトワークス」の主題歌「fhana - Divine Intervention」、声優アーティスト三森すずこ3rdアルバム「Toyful Basket」、GRANRODEOのRemixアルバム「Re:Rodeo」シリーズなど公式Remix企画にも参加し活躍中である。
また、DAW「SONAR」ユーザーである事を生かしサウンド&レコーディングマガジンにて時折DAW関連の執筆も行っていた。
現在TakachenCoは仙台、C.Sayidは東京を中心に活動中。
彼らの今までの音楽活動歴、そしてダンスミュージックのシーケンサーとしては比較的珍しいSONARユーザーである事。
それら諸々を知りたく今回インタビューを行った。
兄弟で共有した音楽との出会い
・The LASTTRAKは、作る音楽の幅の広さも特徴だと思うのですが、お2人は実の兄弟という事で、幼少期からはどういった音楽を聴いてきたのでしょうか?
Takachenco :小3の頃あたりから音楽に興味をもったわけですけど、主にヒットチャートをおっかけてた感じですね。それより前からピアノは習ってましたが、あまり真面目にやってはなかったかなと。
C.Sayid :僕も兄貴が聞いているのを一緒になって聞いていました。
・takachencoさんの時代のヒットチャートだと、どういったものが多かったでしょう?
Takachenco :やはりB'z!でも初めて買ったCDは米米CLUBの「オクターブ」でした。あとシングルだと、大事MANブラザーズバンドと嘉門達夫の「替え歌メドレー3」でしたね。
・C.SayidさんはどういったCDを買ってらしたのでしょうか?
C.Sayid :初めて買ったのはクレヨンしんちゃんのサントラとFF4のサントラだったと記憶しています。
・ 嘉門達夫 、アニメとゲーム、後のラストラの原型が見えてきますね。
Takachenco :そうかもしれませんね。嘉門達夫の替え歌メドレーなんか、まさにMEGAmix的であり、リミックスのようなとこもありますし(笑)今に影響しているかもしれません!
・確かに、メガミックスといってもいいですよね。兄弟でCD類は共有していた感じでしたか?
Takachenco :そうですね!八割型買ってたの俺ですけど。
C.Sayid :今もそうですが、共有してました。幼い頃は部屋も一緒だったので自然とそうなりましたね。
Takachenco :小学生の頃は、CDは沢山買えなかったので、FMでフル尺流してくれる番組があって張り付いてテープに録音してました!しこたま録音して、家族で遠出するときはそのテープを聞くみたいな感じでしたね。
・やはりお兄さんの影響が強かった。小学生から録音となると、かなりその頃から音に対して貪欲だったんですね。中高生になると、音の興味もそれぞれ別れていった感じでしょうか?
Takachenco :中学の頃に入るとV系ブームが到来します。俺はギター、弟はベースをはじめるんですよ。
・最初は楽器から入ったんですね。お2人でバンドなどは組まずに別々に活動していた感じでしょうか?
Takachenco :俺は当初B’zやりたかっですよ(笑)むずくて。
C.Sayid :一緒にバンドやってました。
Takachenco :弟はL'Arc〜en〜Cielに陶酔してましたので最初から五弦という(笑)(※通常は四弦)
・やはり。B'zは松本さんのソロが難しいですよね。いきなり五弦もハードル高いですね。
・高校時代も経て、お2人は同じ工学系の大学に進学されるわけですが、ダンスミュージックに傾倒し始めたのはどういうタイミングだったのでしょうか?
Takachenco :高校入学直前に高校入るんだから洋楽聞かないと行けないと思いまして、地元のCDショップの洋楽コーナーの視聴機にUnderworld の「Pearls girl」のEPが入ってまして。
・高校時代に「Pearls girl」が出てたんですね。
Takachenco :それの一曲目聞いてヤラれましたね!当時トレスポ(映画:Trainspotting)が流行っててその流れで視聴機に入ってたみたいなんです。97年ですね。この年が凄いんですよ。
・97年はThe Chemical BrothersやFatboy Slimなどもいて豊作の年でしたよね。(後に調べた所Fatboy Slimは96年のリリースでした)
Takachenco :ラジオの洋楽チャートでThe Prodigyとケミカル知ってそれも衝撃的でしたね。「Dig your own hole」も、蟹ジャケ(The Fat of the Land)も97年ですからね。
・色んなジャンルが花咲く年でしたね。
Takachenco :そんでLUNA SEAのSUGIZOがツアー中に聞いてるCDを雑誌ギグスで紹介してて、それでアブストラクトヒップホップやジャングル、ドラムンベースを知りました。
・SUGIZOさんは打ち込みも幅広く聴かれてましたよね。
Takachenco :DJ KRUSH知ったのはスギ様の影響デカイですね!
Takachenco :97年はオーバーグランドでもダンスミュージックが活気良くてドンドン聴いていけた環境があったと思います。
・そうですね。一般の人にもダンスミュージックが少しずつ認知されていった年だと思います。
C.Sayid :あとはファットボーイスリムなどのビッグビート。
Takachenco :コカコーラのCMでKEN ISHIIが起用されてたりしましたよね。
・KEN ISHIIのMVなども未来感があって衝撃でしたよね。
Takachenco :アニメとのクロスオーバーもあり我らみたいにアニメ好きとしても入りやすかったっすね。中三の頃にエヴァにクソハマりまして、「アニメ、ゲーム好き=ヲタク」のようなイメージではなくなるはず!と攻殻機動隊のゲームのサントラ(PSソフト「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」のサウンドトラック「攻殻機動隊[Megatech Body.Co.,LTD. .])とか聞いてイキってましたね。
・実際に壁が除かれるのはそれから大分後でしたね…
99年。フジロックでダンスミュージックに開花した
・初めてのクラブデビューのお話なども伺っていいでしょうか?
Takachenco :クラブ体験というと地元(盛岡)のヒップホップのパーティには少しいった程度なんですけど、まあ楽しいもんじゃなくて、本格的クラブを体験したなって思えたのは大学の頃、デモテープ送った先のレーベルの方に連れていってもらった移転前のリキッドルームですね。
・まだ新宿にあった頃ですね。
Takachenco :クラブ体験よりも、我々としてはフェス体験の方がデカイとこあります。
C.Sayid :僕も一緒です。地元のクラブには偏見もあり、金もなかったので全く行けてなかった。
・ラストラのお2人はフジロックに毎年行かれてますよね。
Takachenco :私が高3、弟が高1のころにフジロックにいったんですよ。そこでアンダーワールドを生で聞いて衝撃受けました。
C.Sayid :そっから今まで大体毎年行ってます。
・今調べたんですが、アンダーワールドが出たのは1999年、第3回の時のフジロックですね。
Takachenco :そうですね!
C.Sayid :レイジの裏だったと記憶してます。
Takachenco :レイジ見にいったら暴徒化した後ろの客に背中殴られて、やばいと思いアンダーワールドに逃げ込んだんですよ。
・レイジのライブはやばかった(笑)
C.Sayid :トラウマですね(笑)
Takachenco :結果アンダーワールド行ってよかった!っていう(笑)ダンスミュージックをデカい音で浴びるのすげーなぁみたいな
・会場で聴けるBorn Slippyは感動ですよね。
Takachenco :勢いあった時期だしあのタイミングでライブ見れたのはほんと良かったです。
・やはりフェスに2人で行かれた体験がその後に諸々の影響を及した形になるんですね。
Takachenco :フェス体験がやっぱデカいっすね。
C.Sayid :ですねー。
Takachenco :クラブも行ってたんですけど、クラブたーのしーってなったのはラストラはじめてMOGRA行くようになってからですね。
・MOGRAだと大分後ですね。やっとアニソンやアニリミの地盤が整えられた頃でしょうか。
Takachenco :2010年くらいですかねー
・10年間の間が…
楽器から打ち込みへと移行の時
・バンドから打ち込みに移行された時の事もお聞きしたいのですが。
Takachenco :迷走してましたので(笑)ドラマーが居なかったんですよ!
・なるほど。
C.Sayid :だから打ち込むしかなかった。
Takachenco: それでDTMを導入して補うようになったんです。
・シーケンサーは最初からSONARだったのでしょうか?
Takachenco :前身となるCakewalk ですね。
C.Sayid :ミュージ郎ですね。
・懐かしい名前が!
Takachenco :当時家電量販店にも置いてましたもんね。
C.Sayid :ミュージ郎 のシンガーソングライターでドラムを打ち込んでいたんです。
Takachenco :コピーバンドの方がいきづまっていき、同時にダンスミュージックの方に興味が出てきて、Cakewalkのオーディオトラックを利用してサンプリング主体でトラックを作るようになるんですよ。当時は4トラックしかオーディオトラックが使えなくて。それを駆使してトラック作ってました。
・MOD(サンプリング主体のフリーシーケンサー)より少ない、凄い。リミックスなどは既にその頃から作っていましたか?
Takachenco :やってました!カウボーイビバップの劇伴のリミックスやってました(笑)
・今現在サンクラに上がっているものに近い感じでしょうか?
Takachenco :ビート乗せた程度なんでぜんぜんクオリティーは低いですよ。でも当時として活気的なことをやったと思い込んでて、カウボーイビバップのエドの声を当ててた多田葵さんのラジオ番組宛にMD送りつけたりしました(笑)
・自分が初めてラストラを認識したのは、幽☆遊☆白書のリミックスで、ニコニコで拝見したのですが、2人でThe LASTTRAK名義を始めたきっかけをお聞きしたいです。
Takachenco :それまでもいろいろと活動してたんですけど、結構硬派な音楽やってたんです。アブストラクトヒップホップみたいな。それに対して覆面ユニットというか、Soulwaxに対して2manydjsみたいな覆面感のあるDJユニットとしてブートリミックスやりまくるみたいなコンセプトだったんですね。
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The LASTTRAKのデビュー作は?
・ラストラでのデビュー作はどの曲になるのでしょう?
C.Sayid :nilgirisの「kiseki」が始めかも。
・https://soundcloud.com/thelasttrak/kiseki-the- lasttrak-remix
これですね。
Takachenco :ですね。
C.Sayid :丁度、鉄腕バーディーのアニメにハマってて。
Takachenco :面白かったし曲もいいしで。
・丁度7年前の2010年ですね。サンクラの履歴を見ると、その後はRaul Midonのリミックスになりますね。
C.Sayid :それはラストラ以前に作ったやつだったんですがサンクラ始めたばっかだったんでアップしてみました。
Takachenco :イイキョクを広めたい!っていうのラストラのコンセプトですね。Raul Midonは弟が勢いで作ったやつですね。
・なるほど。アニメに拘るわけではなく。
C.Sayid :そんな感じです。
Takachenco :当時はツイッター、サンクラが流行り始めたころでしたからね。模索してた感じですね。微笑みの爆弾やkisekiとかはyoutube、ニコ動にも上げてますし。とにかく全部上げとこうみたいな(笑)
・確かにツイッターの流行りとも同期してますね。皆mixiからツイッターに引っ越してきて慣れてきた頃かな…。
Takachenco :ustもでてきた頃でしたし2010年はネットが面白かったですねー!マルチネとか聞いてて自分の歳下の世代が滅茶苦茶好き放題やってるのに刺激を受けたってのもありますね。
・そうですね、ustは楽しかったです。DOMMUNEも始まる前ですね。私が知るきっかけになった「微笑みの爆弾」、「水の星へ愛を込めて」ともこの年でした 。マルチネからはラストラの方からデモを送ったのでしょうか?
Takachenco :そうです。ずっとマルチネ聞いてたんで、ネットで活動するなら出しておきたいというのがありました。ファンとしても、箔をつけたいたいう思いもあり、ダブステップが浸透し始めた頃でしたけど、まだ日本ではあんまり広まってなくて穴場かなというのもあり、さらに日本語ラップが乗ったら斬新だろうというのがありました。
・マルチネの74番ですとかなり面子も出揃ってきて脂が乗って来た頃ですね!そういう意図もあったんですね。ラストラは流行に敏感というか、新しいジャンルを常にやっているイメージがあります。トレンドを捉えるのがうまい。お2人で制作しているという事もあり、この曲はこういうリミックスにしようというのは2人で相談して決めているのでしょうか?
Takachenco :大抵俺がプリプロ作って弟にブラッシュアップ&ミックスを振る感じです。漫画で言うとネームが私です。アイディア担当。
・なるほど。
C.Sayid :お互い仕事も家族もあるので分業しないと全然進みません…。
Takachenco :俺がしこたま音楽聴いてるのでいろいろ思いつくんですよね。
・そうですよね…今はお2人ともお子さんがいる事ですし…
Takachenco :時間がとにかく無い!っていう
・Takachencoさんのツイッターを見ていると、常に忙しく見えるのですがどうやってインプットを新しくしているのかがいつも疑問です。
Takachenco :仕事が車で営業なんですけど音楽はしこたま聞けるんですよー!
・車内で聴き放題っていう感じですかね。
Takachenco :ですね!一人っきりなのでツイッターもめちゃめちゃチェックしてて。「いいね」しまくって後からチェックしてます。
・それでインプットを得てるんですね。今度からTakachencoさんの「いいね」をチェックしてみよう…(笑)
Takachenco :恥ずかしい(笑)
SONARについて、使用プラグインについて
・音楽サイトのインタビューなので、シーケンサーについても引き続きお聞きしたいんですが、SONARのメリット、デメリットなどについてお聞きしたいです。
Takachenco :総合的なDAWなので、録音メインのバンド物も打ち込み中心のダンスミュージックも一通り対応できるDAWだと思ってます。
C.Sayid :他のDAW使ってこなかったので…難しい質問ですね(笑)
Takachenco :逆に何かに特化してるわけではないのがネックで、サードパーティのプラグインを取り入れることでトレンドについていけるのかなと思ってます。
・なるほど。あくまでオールマイティのシーケンサーという感じでしょうか。ableton Liveなど、他のシーケンサーに興味は無かった感じでしょうか?
Takachenco :ableton Liveには興味あったんですけど、クリップを切り貼りしまくる手法をとってたので、トラック内で作業できるスタイルの方が我らにはむいてたのかなーと思います。ダンスミュージック界隈だとユーザー少ないですけどバンドやミク界隈だと結構なユーザー数いるんですよね。
・良く使うプラグインについても教えて頂けたらと思います。
Takachenco :定番ですけど「izotope ozone」、「serum」、「ni lazer」とかですね。俺は最近は歪み系の「izotope trash」にハマってます。研究中。serumもlazerも主旋律となるリードシンセとして主に使ってますが、最近だとSerumはベースも使うようになってきてます。今っぽい音が簡単に出るのでつい使ってしまいます。
C.Sayid :あとはソナー同梱の「z3ta+2」ですかね。
Takachenco :NI Massive流行り始めた頃はZ3ta+でも同じことができるわい!とムキになってました笑
・ozone、serumは良く聞くんですが、lazerとtrashは結構珍しい気がします。マスタリングは全部ozoneで行っている感じですか?
C.Sayid :マスタリングミックスは全てozoneです。使いやすいです。
Takachenco :z3ta2は付き合いも長いのでイジリやすいシンセですね。単品販売もされてるので海外ではそこそこ人気あるらしいです。でもプリセットがあまりいいのがないので今っぽいのは作るしかない。
C.Sayid :シンプル構造なのでシンセ覚える上でも勉強になりました。
Takachenco :massiveとかのチュートリアルの動画見てz3ta2の音作りするときもありましたね。構造自体は大体一緒なので。
LASTTRAKとしての展望、気になるジャンルなど
・最後に、LASTTRAKのこれからの展望や、今気になっているジャンルや方向、流行など教えて頂ければと思います。
Takachenco :ラストラとしての展望ですが、仕事や家庭もあるのでこれまで通りマイペースでやっていきます!一件デカい案件あるんで乞うご期待です!気になってるジャンルは、新しいインディーR&Bの潮流ですねー。James Blake以降、TRAP以降の手法を取り入れてるR&Bアーティストが出てきてるので追っかけてます。後BPM100付近のダンスホールレゲエですねー。レゲトンリバイバルしてる感じとありますし、トロピカルハウスとも食い合わせが良かったりしますし。
・レゲトンリバイバルしているのか…C.Sayidさんも一言頂ければと!
C.Sayid :そうですね…気取らずにこれまで通り頑張ります!イオさんは我々の大学のパイセンでもありますし機会があればゆっくり酒でも飲みながら話したいですね(笑)
・そうですね(笑)。ありがとうございます。
The LASTTRAK(TakachenCo.&C.Sayid)
岩手出身の兄弟リミキサーユニット。2009年よりアニソンをDJ仕様のダンスミュージックにリミックスし次々とネットに公開、秋葉原MOGRAを中心にアニソンクラブシーンから注目を受けるようになる。これまでにリミックスおよび楽曲提供を行ったアーティストは、Midicronica、NIRGILIS、Cherry Brown、DECO*27、チームしゃちほこ、fhana、PAGE、Charisma.comとヒップホップからアイドル、アニソンの公式リミックスまで多岐にわたる。近年では韻踏合組合「REAL GOLD」、GRANRODEOのリミックス集「Re:Rodeo」、クラウドファンディングで制作された高田梢枝「幸せの見つけ方」、三森すずこの3rdアルバム「 Toyful Basket」に参加している。